厚生労働省が作成の「適正飲酒のガイドライン」のまとめ

厚生労働省は2024年に飲酒に伴うリスクや健康への害に対する知識や理解を国民が深めるために、適切な飲酒量や飲酒習慣に対する「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を作成しました。
このガイドラインは、アルコールの健康被害の発生を予防や防止し、国民のアルコールに対する意識と理解を深めることが目的です。
ガイドラインの要約は下記になります。


適正飲酒のガイドラインの趣旨と内容

ガイドラインは、アルコールによって生じる健康障害の発生を防止するため、国民がアルコールに対する関心と理解を深め、各自が事前に予防や対策を取ることで、不適な飲酒を減らすためのが目的です。
アルコールは嗜好品として、生活に深く浸透しているものの、お酒が理由によるトラブルや健康被害も発生しています。

ガイドラインは、基礎疾患等がない 20 歳以上の成人を中心に、アルコールによる心身への影響について、年齢・性別・体質等による違いや、飲酒による疾病・行動に関するリスクなどを分かりやすく伝えています。加えて、考慮すべき飲酒量(純アルコール量)や、飲酒の際に留意すべき事項を示すことで、飲酒や飲酒後の行動の判断等に資することを目指すものとします。

アルコールの代謝と身体への影響

アルコール代謝

飲酒した際、飲んだお酒に含まれるアルコールの大半は、小腸から吸収され、血液を通じて全身を巡り、肝臓で分解されます。アルコールの分解には、体内の分解酵素と呼ばれる物質等が関与していますが、体質的に分解酵素のはたらきが弱いなどの場合には、少量の飲酒で体調が悪くなることがあります。

飲酒による身体への影響

アルコールは血液を通じて全身を巡り、全身の臓器に影響を与えるため、飲みすぎには、いろいろな臓器に病気が起こる可能性があります。飲酒による影響には個人差があり、例えば年齢、性別、体質等の違いによって、それぞれ受ける影響が異なります。主な身体への影響として、以下のような特有の状態変化や固有のリスクなどが生じる可能性があります。なお、体調など個人のそのときの状態にも左右されます。

年齢の違いによる影響

高齢者は若い時と比べて、体内の水分量の減少等で同じ量のアルコールでも酔いやすくなります。また、飲酒量が一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まります。併せて、飲酒をして酔っ払うことで、転倒・骨折、筋肉の減少のリスクが高まります。
若年者は、脳の発達の途中であり、多量飲酒によって脳の機能が落ちると言われています。高血圧等などののリス
クが高まります。

性別の違いによる影響

女性は、男性と比較して体内の水分量が少なく、分解できるアルコール量も男性に比べて少ないため、男性の半分の飲酒が適量と言われれいます。女性は、男性に比べて少ない量かつ短い期間での飲酒でアルコール性肝硬変になる場合があるなど、アルコールによる身体への影響が大きく表れる可能性があります。

体質の違いによる影響

アルコールを分解する体内の分解酵素のはたらきの強い・弱いなどが、個人によって大きく異なります。分解酵素のはたらきが弱い場合などには、飲酒により、顔が赤くなったり、動悸や吐き気がする状態になることがあります。

長年飲酒して、不快にならずに飲酒できるようになった場合でも、アルコールを原因とする口の中のがんや食道がん等のリスクが非常に高くなリますので、注意が必要です。

過度な飲酒による影響

過度な飲酒や、飲酒後の行動によって、以下のようなリスクが高まる可能性があります。

疾病発症等のリスク

急激に多量のアルコールを摂取すると急性アルコール中毒になる可能性があります。また、長期にわたって多量に飲酒をすることによって、アルコール依存症、生活習慣病、肝疾患、がん等の疾病が発症しやすくなります。

アルコール依存症とは、大量のお酒を長期にわたって飲み続けることが主な原因で発症する精神疾患の一つです。お酒をやめたくてもやめることができない、飲む量をコントロールできない等の症状により、仕事や家庭など生活面にも支障が出てくることがあります。

行動面のリスク

アルコール摂取により運動機能や集中力の低下等が生じ、使用することで危険を伴う機器の利用や高所での作業による事故などの発生、飲酒後に適切ではない行動をとることによって怪我や他人とのトラブルの発生などが考えられます。

飲酒量(純アルコール量)について

アルコールのリスクを理解した上で、次に示す純アルコール量に着目しながら、自分に合った飲酒量を決めることが大切です。

飲酒量の把握の仕方

お酒に含まれる純アルコール量は、「グラム(g)=お酒の量(ml)×アルコール度数(%)÷100×0.8(アルコールの比重)」で表すことができ、食品のエネルギー(kcal)のようにその量を数値化できます。飲酒をする場合には、お酒に含まれる純アルコール量(g)を認識し、自身のアルコール摂取量を把握することで、例えば疾病発症等のリスクを避けるための具体的な目標設定を行うなど、自身の健康管理にも活用することができます。
単にお酒の量(ml)だけでなく、お酒に含まれる純アルコール量(g)について着目することは重要です。

(お酒に含まれる純アルコール量の算出式)
摂取量(ml) × アルコール濃度(度数/100)× 0.8(アルコール比重)
※ 例: ビール 500ml(5%)の場合の純アルコール量
500(ml) × 0.05 × 0.8 = 20(g)

飲酒量と健康リスク

世界保健機関(WHO)等では、飲酒量(純アルコール量)が少ないほど、飲酒によるリスクは少なくなるという報告もあり、飲酒量(純アルコール量)をできる限り少なくすることが重要です。
例えば、高血圧や男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などの場合は、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまうこと、大腸がんの場合は、1 日当たり約 20g程度(週 150gグラム)以上の量の飲酒を続けると発症の可能性が上がる等の結果を示した研究もあります。これらの研究結果に基づく疾病毎の発症リスクが上がる飲酒量(純アルコール量)について、別添に示したものが参考となります。
これらよりも少ない量の飲酒を心がければ、当該疾患にかかる可能性を減らすことが出来ると考えられます。

なお、飲酒の影響を受けやすい体質を考慮する必要がある場合などには、より少ない飲酒量(純アルコール量)とすることが望まれます。飲酒は疾患によっても、臓器によっても影響が異なり、個人差があります。かかりつけ医がいる場合には、飲酒についての相談をすることも有用です。また、飲酒量(純アルコール量)が多くなることは、病気や怪我の可能性を高めるだけでなく、飲酒後の危険な行動につながる可能性も高くなります。これらを避けるよう、飲酒量(純アルコール量)に注意していくことが重要です。

飲酒に係る留意事項

重要な禁止事項

法律で禁止されている場合や、特殊な状態で飲酒を避けることが必要な場合など、以下のようなものがあります。

  • 法律違反に当たる場合等
    • 酒気帯び運転等
      飲酒時には、安全運転に必要な情報処理能力、注意力、判断力等が低下します。
    • 20 歳未満の飲酒
      脳の発育に悪影響を及ぼし、若い頃からの飲酒によって依存症になる危険性も上がります。
  • 特定の状態にあって飲酒を避けることが必要な場合等
    • 妊娠中・授乳期中の飲酒
      妊娠中の飲酒により、胎児へ胎児性アルコール症候群等をもたらす可能性があります。授乳期中などには、家庭内などの周囲の理解や配慮が必要です。
  • 体質的にお酒を受け付けられない人の飲酒
    アルコールを分解する酵素が非常に弱い人は、ごく少量の飲酒でも、強い動悸、急に
    意識を失うなどの反応が起こることがあり危険です。

避けるべき飲酒等について

避けるべき飲酒や飲酒に関連した行動には、例えば以下のようなものが挙げられます。飲酒をする場合には、自分が現在どのような状況にあるのかを確認し、飲酒に適するかを個別に判断していく必要があります。

  • 一時多量飲酒
    様々な身体疾患の発症や、急性アルコール中毒を引き起こす可能性があります。一時多量飲酒は、外傷の危険性も高めるものであり、避けるべきです。
  • 他人への飲酒の強要
    飲酒は様々なリスクを伴う可能性があるものであり、他人に無理な飲酒を勧めることは避けるべきです。併せて、飲酒を契機とした暴力や暴言などにつながらないように配慮しなければなりません。
  • 不安や不眠を解消するための飲酒
    不安の解消のための飲酒を続けることによって依存症になる可能性を高めたり、飲酒により眠りが浅くなり睡眠リズムを乱す等の支障をきたすことがあります。
  • 病気等療養中の飲酒や投薬後の飲酒
    病気等の療養中は、過度な飲酒で免疫力がより低下し、感染症にかかりやすくなる等の可能性があります。また、投薬後に飲酒した場合は、薬の効果が弱まったり、副作用が生じることがあります。飲酒の可否、量や回数を減らすべきか等の判断は、主治医に尋ねる必要があります。
  • 病気等療養中の飲酒や投薬後の飲酒
    病気等の療養中は、過度な飲酒で免疫力がより低下し、感染症にかかりやすくなる等の可能性があります。また、投薬後に飲酒した場合は、薬の効果が弱まったり、副作用が生じることがあります。飲酒の可否、量や回数を減らすべきか等の判断は、主治医に尋ねる必要があります。
  • 飲酒中又は飲酒後における運動・入浴などの体に負担のかかる行動
    飲酒により血圧の変動が強まることなどによって、心筋梗塞などを引き起こす可能性や、転倒などにより身体の損傷を引き起こす可能性があります。

健康に配慮した飲酒の仕方等について

飲酒をする場合においても、様々な危険を避けるために、例えば、以下のような配慮等をすることが考えられます。これらにも留意することが重要です。

  • 自らの飲酒状況等を把握する
    自分の状態に応じた飲酒により、飲酒によって生じるリスクを減らすことが重要です。医師へ相談したり、AUDIT等を参考に自らの飲酒の習慣を把握することなどが考えられます。
  • あらかじめ量を決めて飲酒をする
    自ら飲む量を定めることで、過度な飲酒を避けるなど飲酒行動の改善につながると言われています。行事・イベントなどの場で飲酒する場合も、各自が何をどれくらい飲むかなどをそれぞれ自分で決めて飲むことが大切です。
  • 飲酒前又は飲酒中に食事をとる
    血中のアルコール濃度を上がりにくくし、お酒に酔いにくくする効果があります。
  • 飲酒の合間に水を飲むなど、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする
    飲む量に占める純アルコールの量を減らす効果があります。
  • 一週間のうち、飲酒をしない日を設ける
    毎日飲酒を続けた場合、アルコール依存症の発症につながる可能性があります。一週間
    の純アルコール摂取量を減らすために、定期的に飲酒をしないようにするなど配慮が必要
    です。